2011年9月27日火曜日

「ゆれ動くしっぽ」

大学院時代に出会いをいただいた方が翻訳された「ゆれ動くしっぽ」(The Tale That Wags)。8月に出版されていたがようやく購入し読みふけった。大学院時代、私も一部分ではあるが、校正に協力させてもらったのだが、その当時感じた、鮮烈な印象を、昨日のことのように思い出しながら一気に読んでしまった。

大学入試制度の問題点を鋭く描いた衝撃的な内容であるが、高校生や新任教師やベテランの教師、それに大学生や教授たちなど、日本の英語教育を語る上で欠かすことのできない、様々な立場の人々が登場する小説になっており、読者はそれぞれの登場人物たちに自分を重ねながら本書を読み進めることができる。日本の英語教育を本気で何とかしようとしてきた外国の方々の気持ちにも触れられ、私は大学院時代にそのような人々に実際にお会いしてきたこともあり、涙が出そうになりながら、感情移入して本書を読み進めることとなった。「テスト主体の教育」という日本の教育上の問題点を明るみに出したすぐれた作品であると同時に、大学院時代に考えていたテーマが思い起こされ、初心に帰る思いで、読み進めた。

日本の教育制度で育ったため、そのシステムに慣れてしまっていて、「そうはいっても事情があるんだよ…」といわゆる守旧派的な日本人の登場人物をかばう自分がいる。一方で、何十年にもわたって日本の英語教育を変えようとしてきた外国人側の存在を、大学院時代に肌身で感じてきた者としては、その方々に感情移入する自分も確かにいる。両方の軸を行ったり来たりしながら、この問題点について考える経験を、本書を読書する中で得ることができた。

そしてまたこれは、単に英語教育という枠に収まらず、大きなシステムにがんじがらめになって、どうしようもなく憤りあきらめそうになっている、私も含めた多くの日本に住む人々にとって、ある種の応援歌にもなる本だなあと、しみじみと感じた。一人ひとりは、よかれとおもって努力し、また人間的にも魅力を抱いている。しかし、システムが腐っているためにいかんともしがたい、そんな圧倒的な力に押しつぶされそうになっている私たち。少しずつでもそれを味わい、時に涙しながら、それでも人間的な方向に向かって歩みだそうとする私たちへの励ましの歌が聞こえたような気がして、勇気をもらった一冊であった。

まだお目にかかっていないTim Murphey先生と、それから貴重な出会いをいただいた訳者のY先生に、心から敬意を表します。ありがとうございました。

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